建築物の構造計算や
耐震性能について
最近よく聞かれます、専門じゃないんですが


構造計算とは 2005年12月10日
最近は建物の「構造計算」が話題になっています。構造計算とは何か、簡単に説明します。

ひとつは、建物が存続するために、建物の自重と建物の積載荷重に対して、建物の柱や梁などの構造部が耐えられることを確認しています。 積載荷重は建物の用途に応じて計算します。新潟などでは屋根に積もる雪の重さも考える必要があります。 それらは建物が在り、使用され続ける限りかかる荷重ということで、長期の荷重に対する検討といいます。

もうひとつは、長期の荷重に加えて、地震や強風などにより付加される荷重に対しても、建物の構造部が耐えられることを確認しています。 構造部は短期的には大きな力に耐えることもできます。これらは短期の荷重に対する検討といいます。

このように2つの視点から、構造計算は建物の安全を確かめる為に行います。


どのように構造計算を行うか 2005年12月10日
構造計算の流れを簡単に書きます。

まず建物の構造部にどれくらいの力(応力)が加わるのかを計算します。 長期的にみてどれくらいの応力がかかるのか、短期的にみてどれくらいの応力がかかるのか、シミュレートします。
次に建物の構造部がどれくらいの応力を許容できるのかを計算します。 構造部の許容できる応力が、構造部に加わると想定される応力よりも、高ければ安全であるといえます。 この手法を「許容応力度計算」と呼び、ここまでの流れを1次設計(ルート1)と呼びます。

また、大地震の時に、建物の変形が許容の範囲内か、建物のそれぞれの階の堅さのバランスに偏りがないか、 各階において堅さのバランスが悪くないか、確認します。
建物の一部に柔らかい部分があるとそこに損傷が集中してしまい崩壊の原因になります。
これを2次設計(ルート2)と呼びます。

そのほかに、大地震の時に構造部にどれくらいの水平力が加わるのか計算して、 建物の構造部が耐えることのできる水平力よりも小さいことを確認します。 耐えることのできるとは、これ以上の力が加わったら崩壊するという意味です。 この手法を「保有水平耐力計算」と呼び、ここまでの流れを2次設計(ルート3)と呼びます。

マンションなどの大規模な建物などではルート1に加えて、ルート2またはルート3の構造計算が必要になります。


地震と構造計算 2005年12月10日
1次設計では短期的な荷重として中規模地震による地震力を設定します。 そのときの地震力として想定されているのは震度X弱です。
震度X弱とは80〜100gal(0.8〜1.0m/s2の加速度)の強さで、建物が存在する間には何度か遭遇する程度の地震と考えられています。
1次設計では構造部の許容できる力が、構造部に加わると想定される力よりも高いこと、ようするに損傷しないことを確認します。
中規模地震にたいして建物が損傷せず、地震のあとも健全に使用できることが求められているわけです。
1次設計は力を受けて変形しても元に戻る範囲、弾性設計の考え方です。

2次設計では大規模地震による地震力を設定します。 大規模地震とは震度Y程度、300〜400gal(3.0〜4.0m/s2の加速度)の強さで、100年に1度くらいは起きる地震と考えられています。
2次設計では構造部の耐えられる力が、構造部に加わると想定される力よりも高いこと、ようするに崩壊しないことを確認します。
大規模地震にたいして建物が損傷したとしても、崩壊することがなく2次的な被害を及ぼさないことが求められます。
2次設計は力を受けて変形したままになることも考慮した塑性設計の考え方です。

普通の建物では中規模地震で壊れないことが、 大規模な建物では中規模な地震で壊れずかつ大規模な地震で崩れないことが、建築基準法で求められています。


耐震性能とはなにか? 2005年12月10日
いまは盛んに、耐震性能が0.3くらいしかないマンションが建てられてしまったと報道されています。
報道で言う耐震性能とは2次設計ルート3の保有水平耐力のことです。

新聞などではQu/Qun=0.3といった表記をみます。
Quとは保有水平耐力のことです。その建物が崩壊し始める時の力の大きさです。
Qunとは必要水平耐力のことです。大規模な地震の時にその建物に加わる力の大きさです。
QuがQunよりも大きければ、大規模な地震の時にも崩壊しないと確認できたことになります。

Qu/Qun=0.3とは大規模な地震の3分の1以下の力にしか耐えられないということです。 大規模な地震が300〜400galを想定したものですから、その3分の1の100〜130gal、震度Xで建物が崩壊するという話しになります。


建築基準法の精神 2005年12月10日
ここまで見ていただいて、震度Yで建物が崩壊しないまでも損傷してしまうという話しに驚いたかたもいるかもしれません。
しかし法律で要求される性能とは最低限度の性能でしかないということです。。少なくともこれくらいは当たり前というレベルの話しです。
震度Zでも損傷しないような建物が欲しいと思えば、そうすれば良いのであって、それをとめる法はありません。
しかし建築基準法は、100年に1度起きるか起きないか、建物の耐用年数の中でむしろ1度も遭遇しないであろう地震に全ての建物が備えることは、 不経済だという考え方にたっているのだと思います。


おわりに 2005年12月10日
以上、非常に大雑把な話ですが、ずいぶん長くなってしまいました。
最近は酒の席でさえもこんなことが話題になったりして、それがうけちゃったりするから、いいんだか、悪いんだか分かりません。
ニュースなどでは今回問題になった偽造は業界の体質で多くの設計者がやっていると不安を煽りますが、 僕はそういう人を見たことないので、なんだかなーといったところです。


建築のページのトップに戻ります トップページへ戻ります